日別アーカイブ: 2014年11月21日

上尾市のはぎむら眼科による黄斑円孔

黄斑円孔
網膜の中心にあるくぼみで、光受容体が密に集まっている、視力が一番いい部分を中心窩と言います。その中心窩の網膜に穴があいてしまう病気が黄斑円孔です。穴自体は直径1ミリに満たない小さなものですが、最も視力が鋭敏な部分にできるため、大きな影響が現れ、視力は0.1前後(近視などは矯正した状態で。以下同様)になってしまいます。高齢者、とくに近視の人に多く、60代を中心に、その前後の年齢層の人に発生しやすいと言われています。黄斑円孔は、以前まで治療法がありませんでした。しかし今では手術によって、視力を取り戻せるようになっています。
円孔のでき方と症状
なぜ、よりによって一番大事な中心窩に穴があくのでしょう。以前はその理由がよくわかりませんでしたが、検査機器が発達したことで、円孔ができるメカニズムが詳しくわかってきました。

【段階1】
加齢によって硝子体が収縮するときに、硝子体の皮質と網膜の癒着が強すぎると後部硝子体剥離が起こらず、網膜が硝子体皮質に牽引されます。これにより、本来は少し凹んでいるはずの中心窩の網膜が、平坦になったり前方に浮き上がったりします。 浮き上がった網膜の内部には、袋のような空洞=嚢胞(のうほう〉が形成されます。この状態では視力はまだ0.5程度はあり、ふだんは両眼で見ているので気付かないこともあります。


【段階2】
網膜がさらに牽引され、嚢胞の縁の一部が破れて弁のようになって、剥がれかかる状態です。視力が低下し、物が歪んで見えたりもします。
【段階3】
弁のようになっていた嚢胞上部の網膜が蓋となって完全に分離し、円孔が完成したばかりの状態です。この状態では中心暗点といって、視野の真ん中だけが見えなくなります。物がつぶれて見える、テレビを見ると人の顔だけが見えない、などがよく聞かれる訴えです。
【段階4】
段階3から数カ月~数年たつと、硝子体はさらに収縮します。分離した蓋は硝子体皮質に付着したまま眼球内の前方に移動してしまっています。

黄斑円孔の治療
黄斑円孔は、少し前までは治療法がありませんでした。しかし今では手術によって、視力を取り戻せるようになっています。

手術の方法

硝子体手術により治療します。白内障がある方は、白内障手術(濁った水晶体を取り出し、人工レンズを挿入する手術)を同時に行います。

眼球に3つの小さな穴をあけ硝子体カッターで硝子体を取り除きます。
黄斑の周りに付着している薄い膜を除去します
網膜の他の部分に裂け目がある場合は、レーザー凝固をおこないます。
目の中に空気や膨張性のガスを入れます。気体のふくらむ力を利用し円孔が閉じるように、手術後は約1週間うつぶせ姿勢になります。ガスは自然に吸収され、眼内に分泌される房水と置き換わります。

 術後は円孔周囲の網膜がガスで抑えつけられている間、円孔が小さくなっています。すると、円孔中心に残っているわずかな隙間にグリ自然に治ることはきわめて稀ですが、放置しても失明することはありません。

発症から6ヶ月以内であれば、1回の手術で90%以上の確率で円孔は閉じ、視力の回復が期待できますので、手術による治療が一般的です。逆に発症から時間が経つと治療が困難になります。なお若い人で外傷により黄斑円孔を生じることがありますが、自然に閉鎖することがあるため、3~6ヶ月間は様子をみます。

段階による手術の適応と術後の視力
【段階2】~【段階4】の患者さんに、手術が行われます。【段階1】では、硝子体皮質と網膜が自然に剥がれて治ってしまう可能性もあるので、しばらく様子をみます。また、【段階4】の状態で何年も経過しているようなケースも、手術の効果が不確かなことや、患者さん自身それほど不自由を訴えないことが多いので、積極的に手術をしないケースもあります。
手術により、0.1だった視力が10日ほどで0.3程度になります。そのあとは中心窩の組織が修復されるとともに、ゆっくりと回復していきます。1回の手術で8割以上の人は、不自由なく暮せるレベルの視力に戻ります。 手術後円孔が閉鎖しますが、視力は緩やかに回復し安定するまでには1年程度かかります。視力改善の具合は円孔ができてから手術までの期間や、円孔の大きさや状態、年齢などいろいろな要素が関係しています。したがって回復過程は患者さんによりさまざまであり、見え方も完全に元通りになるわけではありませんが、多くの場合は改善しています。

今回のアドバイス
いったん治ったあとに、最初の円孔とは別のメカニズムで再び同じような円孔ができる人が、5パーセントぐらいいます。しかし医学の進歩はめざましく(黄斑円孔が治せるようになったのは、最近の話です。)ほとんど再発しなくなりました。
患者さんの約1割は、他眼(健康なほうの眼)にも発病しますが、すでに後部硝子体剥離が起きていれば、網膜が牽引される原因がないので、発病の確率はずっと低くなります。
また手術の合併症で一番多いのは白内障です。60歳以上の患者さんなら1年以内に100%近く起こります。このため多くの場合、黄斑円孔の手術と同時に白内障の手術もしてしまいます。
なお、 手術の合併症として注意が必要なのは、網膜裂孔と網膜剥離です。術後数カ月から約1年の間に5%程度のの人に起こります。視野が欠けたり視力が著しく低下する原因となる、治療の緊急性が高い病気ですから術後はなるべくこまめに検査を受けるとともに、見え方の変化に気をつけて、異常を感じたらすぐに眼科を受診しましょう。